認知症 失認:理解の壁を越えるケア
失認とは、視覚や聴覚、味覚、嗅覚、触覚といった五感に異常がないにもかかわらず、目の前にある物や人が何なのか理解できない状態のことです。例えば、よく知っている箸を見せられてもそれが何なのか分からなかったり、毎日顔を合わせている家族の顔を見ても誰なのか分からなかったりといったことが起こります。これは脳の働きに障害が生じることによって起こり、高次脳機能障害の一つに分類されます。具体的には、物事を認識して意味を理解する機能が損なわれているため、日常生活を送る上で様々な困難が生じます。例えば、箸が何なのか分からないため食事がうまくできなかったり、家族の顔を見ても誰なのか分からないため不安になったり混乱したりするといったことが挙げられます。また、音や匂い、触感など、視覚以外の感覚からの情報についても、認識に問題が生じることがあります。例えば、電話の着信音を聞いてもそれが何の音なのか分からなかったり、シャンプーの香りを嗅いでもそれが何の香りなのか分からなかったりといったことが起こる場合もあります。重要なのは、目や耳、鼻、舌、皮膚といった感覚器官自体には問題がないということです。感覚器官から受け取った情報は脳に届いているのですが、脳がその情報を正しく処理できていないことが原因です。これはカメラで例えると分かりやすいかもしれません。カメラのレンズに問題がなくても、内部の処理装置が故障していると、写真は正しく映りません。失認もこれと同じように、感覚器官は正常に機能していても、脳の情報処理機能に障害があるため、物事を正しく認識できないのです。そのため、介護をする上では、残っている能力を最大限に活かし、その人に合った適切な支援方法を見つけることが重要となります。例えば、視覚で認識することが難しい場合は、触覚や聴覚といった他の感覚を利用した支援を検討します。また、分かりやすい言葉で説明したり、見本を見せたり、繰り返し練習するといった工夫も有効です。それぞれの状態に合わせた丁寧な対応が必要となります。
